長谷守保 建築計画

Human なぜヒトは人間になれたのか


最近NHKスペシャルで放映されたものの書籍版ですが、テレビ見ない習慣やらレコーダさえ持っていないのでついに4回放送のうち1度も見られませんでした^^;が、映像はある種余計な情報も多いので読んだというのも良かったのかも知れません。
「心」という人間に特有でかつ不可思議なもの、それが歴史の中でいかに生まれてきたのか?を知り、現代の環境問題等の中、人類がいかに行きてゆくべきを考えさせるメッセージとなるべく製作されたようです。
いつも書きますが、「進化」という言葉はつまりある理想像のようなものがありそれに向かっているというニュアンスがあると思うので、その意味では人間は進化しているとは(僕は)思いませんし、この書でも分かるように様々な環境変化に適応せざるを得ない中で変化させられてきた結果、裏を返すと道具や社会無しには生きられない存在になってしまった、という方が正確じゃないかとも思います。(1人で無人島で生きられない事を考えれば分かる)
まず良く知られているように人類の直接の祖先のホモサピエンスは、アフリカで生まれ、世界に散って行ったのですが、今の時代で考えると不思議ですがそのときはとてもみどり豊かで生存しやすい環境だったようでして、7400万年前のスマトラ島の巨大噴火で地球が暗くなり気温が下がり、海水が蒸発しなくなるために雨が極端に減り、森が荒れた草原となり、そこに出て行かなければならなくなったために直立歩行を始めた。
そのころはもっと体が頑強なネアンデルタール人なども共存していたようですが、ホモサピエンスだけは石器を使った投てき具をつくり投げる事ができた為に、環境変化で大型動物が減ってもそれを投げて小型動物を捕獲できたために結果生き残る事ができたのと、それをルール違反をした仲間への制裁のためにも使った事で集団が大きくなっても統制が取れるようになった事が様々な技術等の進歩を生んだようです。
トルコ辺りにあるギョベリックテペ遺跡(1万年ちょっと前)は巨大なT字型(人間を表すと思われる)が並ぶ巨大なものらしく、そのときには王のような強い階級社会があり、宗教的な施設としてつくられたのではと考えられているようです。そこでは農耕が始まり盛んだったようですが、さらに大きくなる集団内でルール違反をする人間を出さないようにするためには、宗教が不可欠だったのではないか?と。つまり集団が大きくなって分業化すると「交換」が不可欠になるのですが、同じ宗教を信じる事によって信頼が生まれたから、その交換もうまくゆき社会が大きくなれたのでは?と。
また当初は黒海が淡水湖でそのまわりに密集していた人類は、8400年前頃に黒海に海水が流入し農業に適さなくなったためにヨーロッパに散って行き、人口も爆発的に増え、さまざまな文明が生まれたと推理されています。
アフリカの草原化や大型動物の減少、ホモサピエンスが「投げる」事に適していた、そしてムギなどの農耕に適した食料をみつけた事で人口を飛躍的に増やした、という物理的な変化がきっかけをつくったのですが、この書に通底している、人間にならなかった他のネアンデルタール人や今もいるチンパンジーなどと、私たちは何が違ったからか?というのが最初に上げた「心」につながるようですが、「共感」「協力」「恥ずかしい」というのはほぼ人間にしかない特徴なようで、物理的変化と、そんな特徴があったからこそ、今の人類がいる、というのは読んでいて納得のできることでした。
最後に、「交換」というのは当初は食料などだったので、沢山持っていても食べきれず腐ってしまうのもあり、ある集団の中ではとても公平に分配される習慣があったようで、未だに原始の社会を営んでいる部族などにその傾向は見られるようですが、独り占めさせない事が社会や自分自身にも有利だったという事でしょうね。一方で途中から登場した「貨幣」は、いくら貯めても腐らないし減らないからこそ、「欲望」を生み出してしまったのですが、まだ貨幣が少ししか入ってきていない世界ではお金を貯めたり増やそうとせず,すぐに使ってしまう傾向があるようで、「お金のもっている力に支配されていない」のでは?と書かれていましたが、そう言えば「宵越しの銭は持たない」江戸というのもそうだったのでは?とも思いました。
全て過去の事ですし、様々な説が出されては消えるように何が事実なのか?なんて分かりませんが、もしかして神様がある時、歴史を含めて全てつくったのかも(完全な否定はできない?)知れませんが、人間だけは自ら未来をつくる事ができるし、世界の今後には恐ろしい問題が山積していますが、本書のような、人間がどこから来たのか?を知ろうともせずに技術論で解決できるという風潮が余りにも強すぎるところに、とても違和感を感じます。
建築や住宅をつくる事も同様で、だからこういうものにはとても興味もあり、かつ知り、考えてゆかなければならないと思っています。

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7件のコメント

  • 2012-03-21 @ 1:30 PM
    trsgr

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    私の周りでは大変話題になっており、一応全部観ました。
    前に「歴史上の思想家は大体似たようなことを言っている」という話しをご紹介したような気がするのですが。

    この番組を観ていてレヴィ=ストロースの言っていることやマルクスの言ってた事、フーコーのそれ…からドストエフスキーまで。
    「つまりはあそこで言ってた事はこれか」と符合することが多くて驚きました。
    昔読んだある小説で「マルクスにしろ、歴史のはじまりの『混沌』を覚えていた天才たちの1人」という言い回しがありまして。
    その『気配』を覚えているか否か?と言うことが大切なのではないかと思います。

    返信
  • 2012-03-21 @ 1:34 PM
    trsgr

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    >「交換」というのは
    お歳暮やお中元はその名残なのでは?
    これまさに「贈与論」ですよね。まず相手に余ったモノを渡す(ポトラッチなんかそれ、コンペはまさにポトラッチと磯崎さんは言ってましたが)

    >人間は進化しているとは(僕は)思いませんし
    >1人で無人島で生きられない事を考えれば
    社会性を獲得している動物としては「シロアリ」なんかもそうですよね?
    あと、スタンドアローンで生存できる生物が他にどれだけいるのか?と考えると、人間だけが特別に進化や退化をしているとは思いません(私は)。
    それに「個人」や小集団での良い方向への変化や進化はあり得ると私は考えています。
    それこそ見分けも付かないほどに。

    返信
  • 2012-03-21 @ 1:40 PM
    trsgr

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    例えば・・・「かみ砕いた表現」と言えばこういうのもあります。
    藤子F不二雄「征地球論」より
    http://bit.ly/GF9o2Q
    http://bit.ly/GCU6bb
    http://bit.ly/GCBPvg
    http://bit.ly/GByhKU
    http://bit.ly/GFHOUF
    http://bit.ly/GFkB2n
    http://bit.ly/GCSDT1

    返信
  • 2012-03-21 @ 5:52 PM
    Moriyasu_Hase

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    「マルクスにしろ、歴史のはじまりの『混沌』を覚えていた天才たちの1人」出スカ。良い言い回しというか、本質的ですね。
    個人は新たに生まれてきたものにしか過ぎないけれど、DNAも血も流れ続けていまここにあるわけですから、記憶の彼方に見つける事ができたのが天才たちなのでしょうね。
    人間だけはとても他者の目を気にする(から顔がとても重要だったり目と口の点三つで顔に見える)とか他者から非難される(村八分的)のが恐いからとても平等に分配をする、なんて性根があったから、古代社会は平等ではなくとも現代の貨幣経済の冷酷な不平等ではなかったようですが、お歳暮はそんな性根の現れなんでしょうね。

    もちろん敢えて退化と言ったりしますが、実際は進化も退化もなく現状適応しているだけで、恐竜のようにいつか滅びるかどうかは僕たちた知り得ないんですよねえ。。

    「征地球論」面白いですね。欲しいなあと検索してしまいましたw

    返信
  • 2012-03-21 @ 10:43 PM
    trsgr

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    「征地球論」
    例の内田樹さんが「難しいことをコロキアル(口語・語り言葉)な態度で説明する事が求められている」って書いてたんですが。少し鼻白んだところがあるのは、これが好きだったからですw
    「とっくにあるよ」と。

    お歳暮、お中元は「贈与」をまず行う…ってところが「交換」より古いのかな?と思うところがあります。価値交換は(物←→物交換でも)もうすでに経済なのですが、まず「与えてしまう」というところが価値を生じ始めると。
    それが負債(感覚)を生じるところから何かが始まる。それ自体が何かを生じる。
    (レヴィ=ストロースは「親族の基本構造」の中でその「贈与」の基本は「女」だったと言っています。物を生む主体としての女。)
    構造とは「循環」の体系であると。
    つまるところ家も婚姻も離婚も出産も儀式も全て「言語」であるそうなのですがそれはまたいずれ。

    返信
  • 2012-03-21 @ 10:44 PM
    trsgr

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    また余談ですが、ちなみにこれは最近亡くなった吉本隆明です。
    「農業では貨幣が介在しないところで、自然の循環をもとにした生産がおこなわれている。そのために農業地帯はおしなべて貧困で、農業人口もどんどん減少している。しかし人間は農業が生み出す食料がなければ生きて行けない。この矛盾をどうするか。
     交換経済ではなく、贈与経済だけがその矛盾を乗り越える可能性を持つ、と考えた。農業者から食料を得るために、都市生活者は等価交換によらないで積極的に自分の富をあげてしまう、贈与のやり方を採用する必要がある。」

    返信
  • 2012-03-24 @ 6:00 PM
    Moriyasu_Hase

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    この書の中でも、抜駆けするヤツに対する厳しい目があるので自分だけがそうならないようにとても敏感であるような事が書いてあり、「贈与」をする事でその安心が得られるのかもしれませんよね。

    >贈与経済だけがその矛盾を乗り越える可能性を持つ
    という意味をきちんと考えないと人類はそれによって滅びてしまうかもしれないですよね。。いつかホモサピエンスはそんな風に滅びたと特集されるのかもですねw

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On 3月 21, 2012
by hase
in みるーよむーかんがえる

7 Comments

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