職人/竹田米吉
- 2017.05.21
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建築をやっている方には是非読んでほしい!という面白さでしたが、今の今まで知りませんでした。1889年に棟梁の息子として生まれ、大工修行をしたが設計や現場でも働いた著者の回顧録?それがまた当時の職人などの様子がとても良くわかります。
それも、はしがき、を吉田五十八が書いていて、当時の建築の世界を幅広く経験しながら、さらにこれだけ明瞭に、面白い文章を書けた方は他に誰一人いない、と言ってます。
棟梁の息子なので、小さい頃から当然のように大工の下積みを始めるが、何週間も板を削り続けるようなのに嫌気がさして、横河工務所の門を叩き、努力と勉強の甲斐もあり色々な現場で色々な経験をされたのだけど、途中からは現場監督的な立場で、各種の職人にきちんと仕事をさせるために自ら各種工事がどうあるべきかを学んだり、ととても理想を高く、妥協をしない性格だったようで、でも明治時代当時、外国から鉄骨やレンガなど入ってきて、日本の建築のあり方が大きく変わる動乱の時代で、金儲けのためにズルをしたがる者も多かったようですね。つまり、著者は、古き良き日本の木造の世界の経験から、西洋化してゆく過程も、とても生々しく経験しつつ、常に問題意識を持ちながら生きて来られたので、本書を読むことで、なんで昔はああだったのに、今はこうなのか?ということが良くわかりました。という意味で、建築実務者には是非読んでいただきたいなあと。
ところで、本書を知ったのは、小林秀雄対談集「直感を磨くもの」に出てきたからなのですが、その中で、看板画からそもまま油絵画家に通じているような、職人稼業からまっすぐ芸術家に通ずる道が開けていなければダメだ、というのがあり、僕もそう思うし、そもそもものを作る人間は基本が職人でなければならない、と思っていますが、まあ職人、と言っても色々な解釈があるでしょうし、そんな意味でも本書を読めば、職人、がわかるし、なぜ職人がいなくなってきたか、も分かるんじゃないかと思います。
職人は決して合理的ではありえないし、それを求め始めたら職人ではなくなる。合理的にやればまあ良いものはできるけど、職人でなければ実現できない質の仕事が間違いなくある。けど合理的を求める世の中は、その質を追い出そうとするから、職人には生きづらい世の中ですね。