桂離宮/和辻哲郎
- 2018.10.26
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和辻さんの「風土」はとても大切な書だと思っていましたが、初めて?それ以外を読んだのですが、ご自分の視点がすごくはっきりしている方ですね。とても興味深く読みました。
建築をやり大阪に10年住みながら、お恥ずかしながら桂離宮は行ったことがありません。予約も簡単に取れないという煩雑さと、ブルーノ・タウトに絶賛されたという歴史の中で美化されすぎなんじゃない?という気持ちなど(あと出不精なだけですが)、あとは正直なところ、今でこそ日本の木造文化最高!みたいなこと言っていますが、今まで見てきた国宝たちも、観光客だらけ、とかいうのもあり素直に実物に感じ入って、行って良かった、という経験がほとんどないから、というのもありました。
そして建築設計をやっているわけですから、ただ単に「美しい〜」とか言ってたら観光客なだけですが、「なぜその形にされたのか?」という背後にある意図を感じることができなければいけないわけで、でもやっぱり、特に寺社なんていうのは用途やかかっている金額(木材の質と量)も今私たちがいる建築の世界と別次元に近いので、別世界で起こったこととしてしか見られなくなってしまうのですが、桂離宮は(実際に住んでいたか別として)基本は住まう為に作られたことや、ある種時代を超えた感性で作られている、という意味で、建築設計をやる身としてはもっと知っておくべきだなあ〜というのが読後の今思うことです。
ただ、日本史などの歴史も建築史も似たようなところがありますが、本来は今の自分たちがこれからどんな未来を作るかを考える為に歴史を知るべきなのに、違う動物を観察するかのように、つまり自分たちとは本質的には関係ない、というスタンスで見てしまうので、僕は面白くないなあ〜とよく思いますが、和辻さんは何しろ自分、というフィルターを通しての視点でその作者の気持ちになって文章を書いているので、的外れなところもあるのかもしれませんが上記の「意図」を代わりに教えてくれてとても面白かった、ということです。
「庭園は自然を模しながらも自然の風景よりは一層純粋に自然の美しさを表現しようとするものである。そういうことが可能なのは、自然には無駄が多く、自然の美しさは決して障害なしに易々と出て来るものではないからである。自然の無駄を適当に切り捨てれば、自然は美しく輝きだしてくる。そういう否定の仕事は、自然から出るのではなく、精神の働きによってのみ可能である。芸術的形成としての庭園は、素材としての自然にこの精神の否定的な働きの加わったものに他ならない。」長かったですが大事に思ったのと、乱暴にいうと桂離宮を作った八条宮は、この視点で持って桂を作り上げた、と言えるようです。
そして象徴的なのが「白川石の直線的な橋」で、それに周りの庭石たちや取り巻く建築の意匠までもがその直線に呼応するように整えられた、というのが和辻さんの説の大筋で、でもそれはモダニズムに見られた、工業時代に呼応した直線、とは全く質の違う、上記の自然の美しさを引き立てるための直線、という意味では、広く言えば庭師の仕事、と言ってしまっても良い、と和辻さんは書いてませんが、乱暴に言えばそう読んで良いと思います。
ついでにしてはいけませんが、その前に「古寺巡礼」を読みましたがこちらはあくまで仏教美術に対するものですが、特に薬師寺の聖観音菩薩を礼賛して「これほど宗教芸術としての威厳と偉大さを印象するものは」ない、といい、
「まず、二つの異なった性質の芸術があることに驚かされるのです。すなわち人間の姿から神を作り出した芸術と、神を人間の姿の内に現れしめた芸術とです。前者においては芸術家が宗教家を兼ねる。後者においては宗教家が宗教家が芸術家を兼ねる。前者は人体の美しさの端々に神秘を見る。後者は宇宙人生の間に体得した神秘を、人間の体に具現化しようとする。一は写実から出発して理想に達し、他は理想から出発して写実を利用するのです。」というのだが、さて聖観音はどちらなのか?勉強不足だなあ〜しばらく悩んでしまったのだけど、<目に見えないものを観る>という意味で後者だ、と僕は思っていますが、他方はキリスト教芸術や仏教も中国だとそちらに近いんじゃないかと思いますが、<見えるものだけを信じる>といったところでしょうか。そして和辻さんもギリシアと日本のつながりを見出そうとしていますが、共通するのは、多神教の、神話の世界かな。だからギリシアに影響れて仏像が生まれたしして、仏教が伝わる過程でギリシア的なものは消えたと思ったら、日本に伝わってまためばえてきた、というような。一方でギリシア神殿のエンタシスと法隆寺のそれの類似にまつわる話にも繋がるのですが。
どちらも簡単に論じることのできるようなものではないのですが、和辻さんは<目に見えないものを観る>ということができた方だったのかな。逆にいうと目に見えるものに惑わされない強さを持ってられたのかな、と感じ、もっと知りたくなりました。