村野藤吾著作集

  • 2018.10.02
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畏敬する村野さん。800頁ほどもあり、どこかで読んだものもかなりダブってそうかなと、そのうちじっくり読もうと思いつつ放置してましたが、まだ知らず、改めて感銘を受けた所が多々ありました。

たまに学生さんとかに話すのですが、建築という世界は、昔作られた優れた建築物や、それを作った建築家の生き様や思想や、そういったものに触れられる特殊な世界であり、また余程の天才であっても、それらに触れることによってしかその質を追い越すどころか近づくことさえできないのだから、そんな建築や建築家を自分に引き寄せて感じる努力が必要なんだと思います。

村野さんを言えば「私は厳格なるプレゼンチストである。現在に生の享楽を実感する現在主義者我らに、過去と未来の建築様式を与えんとすることは不必要である、むしろ罪悪である」というようなスタンスがあり、それを理解すればその作風や丹下さんが中心であった大きな建築の流れと全く?関わりなくもこれだけも偉大な仕事をなされた理由が分かります。

また村野さんは「科学」を志向されましたが、一方で「現代建築様式のじゃどうに陥りし原因はまさに破綻せる科学に対する無批判なる全信頼に存するのである」のであり科学を「ヒュウマナイズ」しなければいけない、言い換えると、科学は技術であるけど人間のために使わなければ人間を脅かすのと同じで、「人間のため」を考え続けなければならないから、様式に安穏とできるわけがない。そしてそれは身を削るような生き方にならざるを得ないんだけど、何が村野さんにそうさせたのか?本書から分かったのは、まず早稲田大時代に教わった先生たちのひたむきさ、というか建築に限らず真剣に向き合っている姿に触れたことで、だから村野さんも教育の重要性に度々触れています。そして渡辺節事務所時代やその後にもアメリカやヨーロッパなどかなりの外遊?してずいぶん建築など見て回られていたのは意外でしたが、一つ一つ、村野さんの批評的な眼で見てこられたからこそ、あの多様な作風にも繋がったのだろうなと思いました。

他に今まで読んだ記憶がない村野さんの建築への考え方についてですが、「一つに土地、二番目に生産手段、三つめには労働、このファクターが結びついたものが建築だ」と、ある種当たり前のように聞こえますが、土地の唯一性に支配され、その土地、時代がもつ材料や技術に左右され、最後に設計も含めた人的なエネルギーが加わることで「もの」としての建築ができるのだけど「社会的な再評価を受けることによって」真に「建築」とよびうる。とか、「私は建築家とは職人だ」と僕も常々思っていることを書いてられて嬉しくなりましたが、つまり芸術家的な「非常に高邁なもの」では決してない、つまり地道な努力を継続することで「芸」を身につけてゆくことだと。そう思いますが、一方でその建築家の全人格というフィルターを通じて出てきた作品には、村野さんは1%と言いますが、誰にも侵すことはできない部分があり、そここそが真の建築になりうるかどうかの鍵なのかと思います。

またこんなことも。「われわれが喜んで労働し、喜んで生殖するという本能。それに匹敵するものが何かあるかというと案外少ないのではないかと思う。そうしたわれわれの生活にとって一番必要なものをアレンジすることだけが、建築家の任務ではないか」「そうすると、やはり本当の建築とは誰にでもその良さが分かって楽しめるもの。その代わり誰にでもできるものだ」「社会が今よりもずっと高度化したらそうなる」、とそう思いますし、それは村野さんが日本建築を建築家でなく土地持ちで普請を繰り返した泉岡という金持ちな材木屋に建築を教わったようなものだ、と回顧しているように、それが文化の分厚さで、現代にはその厚さのかけらもないとすれば、「高度化」していいたのはその時代なのだけど、村野さんが理想とするのはそんな人々がいる世の中から必然的に生まれる魅力的な建築、ということになるんだと思います。

たまに書きますが、僕は村野さんの建築も好きですが、それよりこういった考え方や、考え続けた姿勢により共感してきているので、結果?僕も上記だけでなく村野さんの言葉のほとんどに同意できますが、他のほとんどの建築家の言葉にはあまり同意はできません(笑)

大学時代は様式的な建築を全否定していたのに、様式建築ばかりやる渡辺節事務所で「売れる図面を描け」と言われたことに村野さんが納得したのは、様式がいけないんじゃなくて、人々が「良い」と本当に思える、そして事業として作るなら、結果もちろん「儲かる」ものを実現するためなら逆に何でもあり!という、その結果があの作品の多様性だ、と考えればわかりやすいと思いますが、住宅で言えば「儲かる」は無いとしても、長期的に見て費用や手間もかかりにくく、誰かの手に渡らざるを得ないこといなってもまだ建築としての価値を減じることなく、また日々その良さを享受できる、そんな住宅が「売れる」べきだし、そんな図面を描くべきだと信じてますが、現代は「高度」では無いのか売れる価値がないものが売れてしまっているので、今の世の中に村野さんが生まれたら当惑されるんじゃないかと思います。

これからも村野さん追いかけて行きます^-^