日本建築の美/神代雄一郎

  • 2022.04.21
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引き続き読んでみましたが、僕が生まれるちょっと前に書かれたもの。古典ですね。
「古典は直に見たり読んだりしなければわからない。少なくとも古典をなんらかのかたちで現代の創作活動と関係づけようという下心があるならば、、、、実際に見たり読んだりして、十分に納得がいってしかもそれを忘れてしまった頃、自然に役立ってくるのが古典の現代に対する効用である」から始まり、実際著者もかけずり回っていろいろ見て、自分で考えたからこそ、固定化しやすい学問の世界から離れて本質に対して「論」を立てられたのだと思うけど、常に自分に言い聞かせなければそんなことはなかなかできるものではない(今の情報に溢れた時代には尚さら)。
そういう意味で伊勢神宮が学問の世界で大きく重く取り上げられすぎている中で、「建築史に諏訪大社、、が出てこないのは、本殿という建築を欠いているから」であり「出雲大社も、、大きく取り上げられねばならぬ」のであり、「日本のインテリア(軽薄な室内装飾、みたいな意味でなく直接人間の心と対応するデザイン、というニュアンス)は、中心性を持った柱から出発している」と、それらを丹念に見た結果、強く思うそうだ。またこれはよく言われるけど、日本にそもそも「空間」という言葉がなかった、つまり概念がなかったのだけど、「日本人にとっては『よどみ』とか『ながれ』はあっても内部空間を造形するものではなかった、というのはまずその通りだし「源氏物語絵巻」など、天井と屋根がない描き方があったのは、それがあると中が描けない、なんてレベルの話ではなく、地鎮祭などでも四角く縄だけを張って、そこに世界を作るように、平面的な囲いでながれやよどみをつくることにしか関心がなかったのではないか?そして実際当時の立派な建築でも壁は描かれ彩られても、天井はとてもそっけなく張られているだけだったりするのがそれを裏付ける、と。そしてだからこそ、強い「柱」こそが日本人が一番依拠したものにもなったのだろう。
ただそれも、日本人は椅子式でなく座式であって上方が見にくい姿勢だったり視点が低いから天井が遠かったり、また今のような人工照明もないのに軒が大きく出ていたので結局昼でも暗くて天井なんて見えない、とかそれもあって壁、それも低い屏風なんかでも囲まれた気持ちになった、というのもその通りだと思う。また蝋燭や電灯の初期のものができた時、西欧はそれを天井に吊って、シャンデリアみたいに太陽の代わりになるような使い方をしたけど、日本人は行灯みたいにしたり最初は電球もひかえめに使っていたけど、戦後の西欧化の中で「明るいナショナル」じゃないけど日本人もそんな明るさに憧れてしまって、日本の風情が無くなったから、イサムノグチは例の和紙でくるんだ照明を作って日本の風情を残そうとした、と。なるほどですね。
そしてそんな明るい時代が進むにつれ日本人はいろいろ失った。先日の九間論でも書いたような気持ち良い広さへの感覚や、素材などへの触覚的な感覚、お茶碗などの工芸品も使えれば良い道具に成り下がり、「色」という言葉も本来持つ「色気」を失い単なるColorになってしまい、骨董品や美術品にしても本来暗いところで見る前提だったものが人工照明で照らされてしまったら、本当の良さなんて感じられないような、そんな世の中が、芸術家などの感性や表現もおかしくしてしまった。まあこの辺りは常識的な話だと思うけど、50年前からず〜〜と悪化の一途だってことは再度認識したほうが良いかなと。
多少関連して、茶室って当初は茶碗など眺めたりするのに強い日差しを避けるために北向きだったのが、利休が障子や深い軒でバランスをとりながら南向きにして、茶室に入る前にはしっかり陽の当たる路地を見せて演出?をして、南向きの茶室ができたそうで、面白いなあと。で、茶室ってご存知の通り、小宇宙というか、あの狭い空間で人間の様々な感度を高める装置だったんだろうから、上記のように、感性を鈍らされまくった現代人にこそ、堅苦しい茶道を通じた茶室ではなく、利休が目指した茶室、というのが必要なのかもしれない。
本当は冒頭のように、自分で全て見なければいけないけど、こうやって、本気で向き合って考えてこられた先達の残した、やっぱりこれも古典だと思うけど、読まないといかんですよ。

ちょっと話は飛んで、前から思って書いたこともあるけど、良い仏像を置いても良いような建築(住宅であっても)を目指したいと思ってきたけれど、この話と同じで、照明で明るすぎて感覚が麻痺して置くものたちも無駄に饒舌なものばかりになって、、、という循環を断ち切って、陰影のある場所で、寡黙だけど心静かに全身で感じるとじわっと入ってくる、みたいな世界をとり戻さないといけないと改めて思って、そんな気持ちで、我が家にある新しいグッズ?を増やして、上記の意味での茶室のような感じられる場所ができればいいなって考えてます。