長谷守保 建築計画

芸術の陰謀


随分前に同じくボードリヤールの「消費社会の神話と構造/1970」を読んで以来で、軽く読み返してみたのですが、基本的な論調というのは同じようで、本書でも取り上げるウォーホール等芸術についてもそれなりに触れられていましたし、本書も芸術、というタイトルながらも「消費社会」と同じ構造を指摘しているように思います。つまりは「芸術とは、ひとつのフォルム/形態だよ」「形態は本来の意味では形態以外の何かと交換されることはない」けれど、交換可能な価値のシステムにとりこまれてしまった、というところを出発点にしていて、いうまでもなく、ある種の消費材であるという事です。
そして「私がモノ(形態と同意味かと)の視角を選んだのは、主体を巡る論争から距離を置きたかったからだ」と後に語っているのですが、ハイデガーの「モノ(唯一無二のものというか)」への視線と、そんな交換可能なモノというものを比較してみると、ここで語られていることも分かりやすいかと思いますし、「氾濫しているポルノの中で、欲望への幻想が失われているとすれば、現代アートの中で失われているものは、幻想への欲望である」というのも、つまりは交換不可能な、生身さが失われてしまったという事だと思います。
そして何故「陰謀」なのか?
現代アートは「凡庸で無価値なところがオリジナリティだという価値観と、倒錯的な美学的享楽の告白」であり、「実はほんとうに無価値・無内容/nul」なのだけど、それを価値として「あらゆる立派な存在理由をでっちあげ」それはシークレットサービスのようで「彼らが役に立つという思い込みを利用して相変わらず繁盛している」と。そして「現代アートには、美術業界の自己満足的な視線以外の視線が存在するだろうか?とも。
「それ(芸術)自体が『美』や『意味』を表現するという使用価値をもたない『無意味・無内容』な作品であるほうが、当事者たちには都合がよいわけだが、そんな『無価値・無内容』なモノに法外な値がつくという現実こそが、現代アートの神格化とアーティストのセレブリティ(有名人化)に貢献している」
かと言って現代アート自体を否定しているわけでなく「ほんとうの無意味さ、意味に対する挑戦の勝利、意味の解体、意味の消滅の技法ーそれらはいくつかの稀な作品だけの例外的な特質」としてデュシャンやウォーホールに触れています。
考えてみれば、建築も、音楽も、食だって、もし「貨幣」というものが無い中でつくるんだったら、というか昔はそうだったでしょうけど、その「意味」というものに深く入り込み、感じ、それを元につくるからこそ、人間に取って有意味なものになるんでしょうけれど、「貨幣」が有る事によって、随分つくり方が変わってしまい、「意味」なんてものは邪魔な存在になってきているんじゃないかと思います。
もちろん貨幣経済が終わる事はまず無いんでしょうけれど、たまには反面教師として様々な事を再考する必要があるように思います。

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On 6月 30, 2012
by hase
in みるーよむーかんがえる

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