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  • 2023.01.05
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「言ってはいけない」と二冊読んでみたけどどちらも「確かに」という内容だった。

以前は「一億総中流」なんて言われた時代があったけど、そもそも人間が作ってきた社会は、一部の差別的な扱いを除くと、職業や人間関係の選択の自由はかなり限られていたにせよ、目の前のことにそれなりに真面目に向き合って生きていれば「中流」(それもその状況によるとしても)を多くの人が感じられるくらいで生きて行けたのに、近代になり「知識社会化・リベラル化・グローバル化」が進展する中で、 誰でも努力すれば、仕事や人間関係など自由な人生を選択できたり、自分の作ったものを世界どこでも自由に売ったりもできる、という自由を(形式的に)得た代わりに、一部の成功者に道具のように使われる人生しか歩めなくなる人間が多くなることも受け入れざるを得ない、という世の中になってしまい、タイトルのような、乗り越えられない身分のような分断が世界中に広がってしまった。
そのことは今更文句を言っても変わらないし、確かに世界の平均としては上昇しているのも確かなので、分断も仕方ないとも言える。
ただその分断はクリエイティブに生きて行ける勝者と、誰でもできて、低い単価の仕事しかできない弱者、という単純な構図で描かれるのがちょっと良くないと思ったのだけど、つまり、建築の世界でいうなら大工などの職人や設計もそうだけど、質の高い仕事を続けることによって、そんな儲からなくても、経験を積むほどに仕事の質が上げられるような、そういう仕事もあるっていうことが切り捨てられてしまっている。そして、江戸時代だけじゃなく、世界でも近代の前にはそういう時代があり、今でも丁寧な仕事を重ねることで評価をされているような仕事も少なからずあるし、それは上級、下級、どちらでもない良い生き方ができる、ということにはもっと目を向けてほしい。
もう一つ、日本の生産性が低い(ひいては賃金も低くなる)理由として、日本人が「正社員」という日本的雇用形態に、特に団塊世代がしがみついたり、バブル期に大量に採用してしまった大企業が、彼らを辞めさせられないために、下の世代に大きな皺寄せがきているのが、生産性の低さや、若い世代に希望が見えない理由だ、という、メディアが取り上げにくいこともしっかり書いてあり、そこは本当にそう思う。
個人的には一番問題なのは「世代間格差」であり、今生きている国民の人生に対して少しでも平等公正を目指すべきだし、それであれば、防衛費が1%を2%とかで騒いでいるよりも、社会保障費はずっと大きいし、大きくなり続けているのは団塊世代を守りすぎで、社会保障費も20%(十分不健全な割合だが)を上限に、その中でやりくりさせる、というような発想があるべきだと思ったりする。

「言ってはいけない」は、進化論的に今の人間の文化的部分なども分析をして面白い本で、例えば、僕らって農耕定住を始める前に、もっとずっと長い期間を狩猟採集で定住せずに生活してきていたのだから、その生活様式に適合するために本能的な部分も作られてしまっていて、一夫一妻制なんて本当は人間の性ではなく、猿たちの中で進化的にも人間に最も近いボノボが乱婚なのと同じく集団みんなで産み育てる(人間の子供は長い養育が必要なのでその方がより安心)性を持っている、と、なるほどだ。

「自己責任」で生きていかないといけない時代だからこそ、自分達が無意識的に何に突き動かされているかを知ることで、目先の判断を誤らずに済むことも多いし、結果上級になんてなれなくても、真っ暗闇を歩かされるより、小さな灯りで足元くらいは照らせるような生き方ができれば、と思う。