長谷守保 建築計画

遺言/養老孟司

昔「唯脳論」を読んで以来読んでないような。ちょっと流行っちゃった感じだったから、、でも気になってましたし「遺言」とか書かれると読むしかないか、と。まだピンピンお元気だそうですが。

面白かったけど、遺言だから?か言いたい事を少し脈絡なく言い放った、ような面があるように感じたけど、人間という存在を考え続けてこられた一流の方ですから、さすが本質的でした。

世の中には本来何一つ「同じもの」なんてありませんよね?リンゴだって一つ一つ違う。でもそれを「同じ」と考えようとする意識が人間を人間にした、と、乱暴にいうとそんな事。そして言葉がそれを実現した。

リンゴと名付ける事で、ちょっとずつ違うものを交換可能な同じものにするし、視覚、味覚、触覚、嗅覚、と違う感覚で感じても、それらは「リンゴ」という言葉で同じものに統一されるけど、動物には(おそらく)それはできない。脳の「言語野」がそのように働き、聞いた文章も、読んだ文章も同じ、と、文字の「リンゴ」と実物のリンゴを同じものと考えられる、そんな能力を持った人間だけは複雑な社会を形成することができた。

そしてリンゴも、肉もパンも「食べ物」とくくって「同じ」仲間とする事で、「食べ物」という意味を発生させるから、食べられない、鑑賞価値のない草は「雑草」と言われ排除される。そして障害者という存在は役に立たない雑草と同じだから、殺しても良い、みたいな感性と犯罪も生んでしまった。

あと面白かったのは、象形文字もエジプトでも、文字は最初動物の形などリアルなアイコンだったが、「象」という感じもすっかりゾウさんっぽくないのは、それは視覚にはわかっても聴覚には分からず(象の形かどうかなんてね)そんな風にリアルなっものに近い言語というのは、「ワンワン」「ニャンニャン」みたいに幼稚なものとして扱われ、抽象化され、そんなアイコンを徹底排除したのがイスラム文化で、実はキリスト教圏の文化より先行して洗練、完成されていた文化だったのでは?と。確かにそう思う。

自然も、リンゴの一つ一つも違う、それは感覚ではそのはずだが、それが入力された後の脳では、同じ言葉としてタイプ化されてしまい、生き生きとした生々しさを剥ぎ取られてしまうのが現代で、床はどこでも平らなのが当然のように思われているけど、だから僕ら個人も「個性」というラベルで区別できるように奨励されてはいても、多くの人間が、収穫されたリンゴのうちの一つとしか見なされていない。だからそんな存在にしかなれない子供を、自分に負担を増やしてまで作りたいと思えないのが少子化の原因だろう、と僕なりに言い換えたけど、そんな事だと思う。

具体的にどうすれば良い、ではなく、人間の脳にはそういう働き/クセがある、ということに自覚的になれ、というのが遺言だったのだと思う。

ところで、叔父が亡くなり本日葬式でしたが、両親含め10人いる叔父叔母の中で最初だったので、従兄弟たちとも久々に顔を合わせたり、昔は定期的に顔を合わせていたのもあり、色々考えることがありました。でも、父の世代は、終戦の頃から、生々しく、逞しく生き抜いてきて、一つ一つ、クセのある、違った、味のあるリンゴだったけど、それに比べ、僕らの世代は(それを言うと今の世代はさらにだけど)箱に入った、形の揃った、売りやすいけど味の薄い、リンゴだなあ、と改めて思った。

そして、一部の(でもそこに注目が集まる)幸せは、多数の不幸と引き換えに実現されているように思うけど、それは「同じ」にすると言う意識が勝りすぎた社会の結果であり、感覚をもっと重視する世の中に戻すことでいろんなことが好転してゆくように、僕は思います。

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On 2月 1, 2018
by hase
in みるーよむーかんがえる

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